一番若くて十五、六で入るが、もとは十三、四から入った。そうしてハタチにならない前に、十八、九までにおおよその素質なり、有望であるか見込みがないか、ということがわかるから、その間にどんどん退校してお嫁にいく。奥さんとしては、いわゆる芸術的教養があって、音楽もでき、踊りもできというふうで、手前みそで言えば、彼女らはみんな「上品なマダム」なのである。
 ところが私は、実情がそうなっていることを以前には意識しなかった。われわれ音楽学校をつくって、舞台へ出る芸術家のことばかり考えておったけれども、さて舞台人として活躍している人は三十七人しかない。あとは、ほとんど一般の善良な家庭の主婦におさまっているという事実を見ると、将来もどうもそういうふうになるんではないかという気がする。
 それにつけても、お金をかけて一人前に育て上げた者をよそへとられるなんて、いかにもばかばかしいと思った時代もあったけれども、それはまことに考えちがいで、婦人として、りっぱな教養を備えた理想的奥さんができるならば、そのほかのことは附録のようなものである。むしろ多々益々よそへとられてもかまわぬという気持にさえなっている。

 
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