(本名は江戸川)に沿ふて、小河の通ツてる処あるです。村の者が、こゝに柴漬して、莫大の鮒を捕るのですが、又、此処を狙ツてる釣師もあるです。見つけても叱らないのか、見付かツたら三年目の覚悟でやるのか、何しろ馬鹿に釣れるです。
 主『丁度今が、其処の盛りですが、どんな子供でも、三十五十釣らんものは無いです。彼処《あすこ》の釣を見ては、竿や綸鈎《いとはり》の善悪《よしあし》などを論じてるのは、馬鹿げきツてるです。
 主『葭《よし》の間を潜ツて、その小川の内に穴[#「小川の内に穴」に傍点](釣れさうな場処)を見つけ、竿のさきか何かで、氷を叩きこわし、一尺四方|許《ばか》りの穴を明けるです。そこへ、一間程の綸に鈎をつけ、蚯蚓《みみず》餌で、上からそーツとおろすです。少し中《あた》りを見て、又そーツと挙げさへすれば、屹度《きっと》五六寸のが懸ツて来るです。挙げ下げとも、枯枝、竹枝の束などに引ツかけないやうに、徐《しず》かにやるだけの辛抱で、幾らも釣れるです。彼処の釣になると、上手も下手も有ツたもんで無く、只、氷こわし棒の、長いのでも持ツてる者が、勝《かち》を取るだけですから…………。』
此の時、宛も
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