、』
 主『なアに、皆|柴漬《ふしつけ》です。それでなくては、彼様《あん》なに揃ひやう無いです。』
 客『柴漬ツて何ですか。』
 主『柴漬[#「柴漬」に傍点]ですか。秋の末に、枝川や用水堀の処々に、深い穴を堀り、松葉や竹枝などを入れて置くです。すると、寒くなり次第、方々に散れてる鮒が、皆この、深くて防禦物の多い、穴の内に寄るです。其れを、お正月近くの直《ね》の良い時に、掻い掘ツて大仕掛に捕るです。鯉、鯰《なまず》、其の外色々のものも、一緒に馬鹿々々しく多く捕れるさうです。
 主『枝川や、汐入《しおい》りの池の鮒[#「池の鮒」に傍点]は、秋の末[#「秋の末」に傍点]の出水《でみづ》と共に、どん/″\大川の深みに下ツて仕舞ふです。冬の閑な間、慰み半分に、池沼の掻掘り[#「掻掘り」に傍点]をやる者も、大川に続いてるか、続いてないかを見て、さうしてやるです。若し、続いてるのをやツたのでは、損ものです。既に大川に下りきツて、何も居らんですから。柴漬《ふしつけ》は、この、大川に下るのを引き止めておく、鮒の溜りなのです。
 主『柴漬といへば、松戸のさきに、坂川上[#「坂川上」に傍点]といふて、利根川
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