るは受合ひなり。あゝ元日でさへ無くば往きたし。この一日千金の好日和を、新年……旧年……相変らず……などの、鸚鵡《おうむ》返しに暮すは勿体無し。今日往きし人も必ず多からん。今頃は嘸《さぞ》面白く釣り挙げ居つらん。軒に出せし国旗の竿の、釣竿の面影あるも思の種なり。紙鳶挙ぐる子供の、風の神弱し、大風吹けよと、謡ふも心憎しなど、窓に倚りて想ひを碧潭《へきたん》の孤舟《こしゅう》に騁《は》せ、眼に銀鱗の飛躍を夢み、寸時恍惚たり。
 やゝありて始めて我に返り、思ふまじ思ふまじ、近処の手前も有り、三ヶ日丈け辛抱する例は、自ら創《はじ》めしものなるを、今更破るも悪しゝ。其代り、四日の初釣には、暗きより出でゝ思ふまゝ遊ばん。併《しか》し、此天気、四日まで続くべきや。若し今夜にも雨雪[#「雨雪」に傍点]など降りて水冷えきらば、当分暫くは望みなし。殊に、明日の潮は朝底りの筈なれば、こゝ二三日は、実に好き潮なり。好機は得離く失ひ易し、天気の変らざる内、明日にも出でゝ念《おもい》を霽《は》らし、年頭の回礼は、三日四日に繰送らんか。綱引の腕車《くるま》を勢よく奔《はし》らせ、宿処ブツクを繰り返しながら、年始の回礼
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