埋もれ在る小机も、今日だけは、特《こと》に小さつぱりなれば、我ながら嬉し。
 頬杖をつき、読みさしの新聞に対《むか》ひしが、対手酒のほろ酔と、日当りの暖か過ぐると、新聞の記事の閑文字《かんもんじ》ばかりなるにて、終《つい》うと/\睡気を催しぬ。これではと、障子を半ば明けて、外の方をさし覘《のぞ》けば、大空は澄める瑠璃色の外、一片の雲も見えず、小児の紙鳶《たこ》は可なり飛※[#「風にょう+昜」、第3水準1−94−7]《ひよう》して見ゆれども、庭の松竹椿などの梢は、眠れるかの如くに、些《すこ》しも揺がず。
 扨《さて》も/\穏かなる好き天気かな。一年の内に、雨風さては水の加減にて、釣に適当の日[#「釣に適当の日」に傍点]とては、真《まこと》に指折り数ふる位きり無し。数日照り続きし今日こそは、申し分の無き日和《ひより》なれ。例の場所にて釣りたらば、水は浪立ずして、熨《の》したる如く、船も竿も静にて、毛ほどの中《あた》りも能く見え、殊に愛日を背負ひて釣る心地は、嘸《さぞ》好かるべし。この陽気[#「この陽気」に傍点]にては、入れ引[#「入れ引」に傍点]に釣れて、煙草吸ふ間も無く、一束二束の獲物有
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