たツた一度往ツて見給へ。彼奴《きゃつ》を引懸けて、ぶるぶるといふ竿の脈が、掌に響いた時の楽みは、夢にまで見るです。併し、其れが病みつきと為ツて、後で恨まれては困るが…………。』
客『幾らか馴れないでは、だめでせう。』
主『なアに釣れるですとも。鮒ほど餌つきの良い魚[#「餌つきの良い魚」に傍点]は無いですから、誰が釣ツても上手下手無く、大抵の釣客《つりし》は、鮒か沙魚《はぜ》で、手ほどきをやるです。鯉《こい》は、「三日に一本」と、相場の極ツてる通り、溢《あぶ》れることも多いし、鱚《きす》、小鱸《せいご》、黒鯛《かいず》、小鰡《いな》、何れも、餌つきの期間が短いとか、合せが六ヶ《むつか》しいとか、船で無ければやれないとか、多少おツくうの特点有るですが、鮒つりばかりは、それが無いです。長竿、短竿、引張釣、浮釣、船に陸《おか》に何れでもやれるし、又其の釣れる期間が永いですから、釣るとして不可なる[#「釣るとして不可なる」に傍点]点なしで、釣魚界第一の忠勤ものです。
主『殊に、其の餌つき方[#「餌つき方」に傍点]が、初め数秒間は、緩く引いて、それから、徐《しず》かにすうツと餌を引いてく。其
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