住でも、頗る結構です。』など、
言ひ紛らせども、細君は、其の仔細を知る由《よし》なく、唯もみ手して、もぢ/″\するのみなり。一座甚だ白けたりければ、細君は冷めたる銚子を引きてさがる。主人、更に杯を勧めて、
『此様《こん》な不美《まずい》のを買ツたりして、気の利かないツて無いです。』と罪を細君に嫁《か》す。客は、
『大分結構ですよ。』と、なだめしが、此の場合、転換法を行ふに如かずと思量してか、
『随分お好きの方が多いですが、其様《そん》なに面白いものでせうか。』と
木に竹を接《つ》ぐ問を起す。
『骨牌《かるた》、茶屋狂ひ、碁将棋よりは面白いでせう。其れ等の道楽は、飽きて廃《よ》すといふこともあるですが、釣には、それが無いのですもの。』
至つて真面目に答へたりしが、酔も次第に廻り来りしかば、忽ち買入鮒以前の景気に直り、息荒く調子も高く、
主『深さは、幾尋とも知れず、広さは海まで続いてる水の世界に、電火|飛箭《ひせん》の運動を為《し》てる魚でせう。其れを、此処に居るわいと睨んだら、必ず釣り出すのですから、面白い[#「面白い」に傍点]筈です。
主『物は試しといふから、騙されたと思ツて、君も
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