中々さうも参りません。
細『これは、昨日何時も川魚を持ツて来ます爺やから取りましたのでございますが、さう申しては不躾ですけれども、十|仙《せん》に二枚でございます。家にじツとしてゝ取ります方が、何《ど》の位お廉《やす》いか知れませんです。』
と、鮒の出処の説明に取りかゝる。
主人は、口を特《こと》に結びて、睨《ね》みつけ居たりしが、今、江戸川にて自ら釣りしといひし鮒を、魚屋より取りしと披露されては、堪へきれず、其の説の終《おわ》るを待たず、怒気を含みて声荒々しく、
『おい/\、此の鮒は、僕の釣ツたのだらう。』
細『左様《そう》じやございませんよ。昨日、千住の爺やが持ツて参ツたのでございます。』
主『僕の釣ツたな、どうして。』
細『何時まで有るもんですか。半分は、焼きます時に金網の眼からぬけて、焦げて仕舞ひましたし、半分は、昨日のお昼に、召し上りましたもの。』
主『さうか。これは千住のか。道理で骨が硬くて、肉《み》に旨味が少いと思ツた。さきから、さう言へば好《い》いに…………。』
きまり悪さの余り、旦那といふ人格を振り廻して、たゞ当り散らす。客は気の毒|此《こ》の上なく、
『千
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