とひ鈎に懸ツても、余り暴れんです。寒中のは[#「寒中のは」に傍点]殊にすなほに挙るですが、此の位になると、さう無雑作にからだを見せず、矢張鯉などの様に、暫くは水底でこつ/\延《の》してるです。其れを此方は、彼奴《きゃつ》の力に応じて、右に左にあしらツて、腹を横にしても、尚時々暴れるのを、だまして水面を徐《しずか》にすーツと引いて来て、手元に寄せる、其の間の楽み[#「楽み」に傍点]といふたら、とてもお話しにならんですな。』
客『此の身幅[#「身幅」に傍点]は、全《まる》で黒鯛の恰好ですね。』
客も亦、箸を付けて、少しくほぐす。
主『鮒は、大きくなると、皆|此様《こん》な風になるです。そして、泥川のと違ひ[#「泥川のと違ひ」に傍点]、鱗に胡麻班《ごまぶち》など付いてなくて、青白い銀色の光り、そりやア美しいです。話し許《ばか》りじやいかんから、君|解《ほぐ》してくれ給へ。』
客『え、自由に頂きます。此れは、何処でお釣りになツたのです。』
主『江戸川です。俗に利根[#「利根」に傍点]利根といふてる行徳の方の…………。』
客『随分遠方までお出《いで》になるですな。四里は確にございませう
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