に捕捉しがたいものである。人生は一定不変のものではなく、常に千変万化して生長してゆく、而して神秘の道程に沿ふて全ての生物を導き、吾人の哲学中にあつて夢にも見る能はざるものを示してくれるものである事を彼等は知らないのであらうか。人生は吾人の期待せざる種々の運命と驚異すべき経験を貯へ吾人の先見し能はざる幾多の蕾を蔵するものなる事を彼等は瞥見する事が出来ないのであらうか。人生の美しさはその容易に打算し能はざる処に存し、人生に於ける偉大なる事業とは人生に横《よこた》はる幾多の不安をものともせず次第に高峰を仰で攀登《はんとう》するにありといふ事を彼等は感じないのであらうか。
若し吾人にしてこの事実を認め得たならば仮令それが如何程崇高なるものにせよ一定不変の理想と云ふが如きものを要求することはないであらう。自己のみの理想と雖《いえど》も明日はそれが一般のものと変じ、更らに又新らしき理想が生れて、それを破壊するものであるといふことを知つてゐる人にとつてこの無限なる人生が単一無二の標準によつて推移して行かなければならぬと云ふ思想程恐ろしいものはないであらう。
かくして理想主義なるものは各人が皆な自
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