己の理想を最高なるものの如く思惟し仮令それが他の人々に如何程馬鹿々々しく或は不必要に又恥かしきものと見ゆるとも当人はそれが為めに生死を共にして悔ひないものであるといふことを認める事が出来る。
理想主義者とは恰《あた》かも重き鉄槌を振りまはし義務と云ふ概念の砂礫を道路に打ち込み以て他人の旅行を容易ならしめんと企てるが如き人である。然しながら、地上の道路は無限に延長せられ、両極より赤道に至る迄無数の風習と気質とを異にする人生が横はつてゐるのである。かくの如き多変の人生に対し唯一無二の道徳的標準として生涯不変の恋愛説を主張せんとするが如きは思ふだに愚なることである。
かくの如く主張する人々は自己の思想を同種類の隣人によつて定められたる狭隘なる圏外に彷徨《さまよ》ひ出づることを許さなかつた。彼は又理想なるものは大多数の人々には不可解なるものであつて若し一度それを絶対なるものとして一般人類の上に強ふる時は全く排斥せられるものであるといふことを忘れてゐる。
自己の精神より溢れ出づる信念を宣言すると云ふ事は他人に対して同一の精神状態を要求するといふ事ではない。併しながら人が自己の教訓或は生涯に
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