すれば、かの単一恋愛理想主義者は最早その恋愛の標準を彼等の上に強ふるの権能を有せざるものである。
 併しながらそれは自己の主義以外に彼等の理想を認めざる青年の間にあつて特に企てらるゝことが多い。かの若き『自由思想家』等でさへ自由な寛大な態度を以て性の問題には向はないのである。彼等は唯だ僅かに可能なる二途あるのみと思惟してゐる様に思はれる――即ち慾望の奴隷となるか或は義務の奴隷となるか二者の一を選ぶにある。而してその他の人々に至つては徒らに『鉄鎖を求め埒内に止まらんこと』のみを希《ねご》ふてゐる。彼等は只管《ひたすら》に時間表、出帆日程、或はクツクの旅行案内を打眺めて旅行の安全ならんことのみを欲してゐる。かくの如くしてかの自己の責任の上に立ち自己の危険を賭して新しき道を開拓し新しき国を発見せんと只管に猛進するの勇気を何処に認むる事が出来やう。かの『真理の探求者』を以て自任する若き人々さへこの問題を取り扱ふ時にあつて起り来る矛盾に対し徒らに唸くのみである。然しかくの如き人々は人生なるものが恋愛中に最も矛盾せる形を表はしてゐるものである事を忘却してゐるのである。人生は由来活物である。故に容易
前へ 次へ
全54ページ中8ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ケイ エレン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング