る。瞬かない、眼にはいっぱいに涙がたまり、見てよ、はやく末起と、叫びそうなものが無音のうちに拡がってくる。
「これ、お祖母さま?」
訊いたとき、眼は精根尽きたか閉じられてしまった。涙は頬を濡らして滂沱と流れ、拭かれるとまた※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]らき、おなじことをくりかえすのだった。
たしかに、祖母がこの写真に、要求しているものがある※[#感嘆符疑問符、1−8−78] しかし、それが母への追憶だけとすれば、詰まるところは何事でもないわけだ。それから、末起が失望気味ながらページをくるとまたはじまった。
今度は梳き手がひとり背後にいて、荒歯櫛で解きそろえているところだった。してみると、祖母がいまなにごとを訴えているのか――末起にはやっと分ったような気がした。
どうした理由《わけ》か、末起に毛巻の丸髷を結えというのだ。
二、|不思議の国のアリス《アリス・イン・ワンダーランド》
「お祖母さま、これでいいこと……」
その本には、くわしく結いかたが出ていたので、やっと、ながいこと費って、曲りなりにも結いあげた。ところが、下梳きから癖直しをおわって、髷形が出来かか
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