ろうか。
(ひょっとしたら……)
 これで、もしや何事か分るのではないか――末起も胸を躍らせ、しげしげと注意するようになった。お祖母さまに、ながい闇が裂かれ、光があらわれた……。と思ったのも数度のあとは糠喜びにおわるのだった。
 祖母が、涙をため瞬くまいとする、痛ましさは分っても単一なために、なにを訴え、なにを報らせようとするのかそれが分らない。しまいには、末起もがっかりしてしまい、それからは、思いついた以外には、格別見るようなこともなかった。
 と、ある日――。はじめてお祖母さんのそれが、具象的なものに打衝《ぶっつ》かった。
 それは、母が生前見ていた婦人雑誌を、末起がなに気なくひろげたときだった。口絵には、数頁にわたって髷型の写真があり、なかに、いちばん母にうつった毛巻の丸髷があった。不祝儀のとき、華奢で、すらりとした痩形の母は、かえって初々してそれは浄らかに黒ずくめのなかで、霊体のように見えるのだ。それには、末起でさえも渇仰をおぼえ、いまでも、母といえばその姿がうかんでくる。
 が、気がつくと……祖母の※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]らかれた眼が前方の窓硝子にうつってい
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