ってくると、髣髴と、母の生前の面影がうかんでくる。
 争われぬ母子《おやこ》の相似が、老容のなかにかくれていた……。
 末起も、結いあげて鏡の顔をみたとき、ふいに、瞼の内側に熱いものを感じた。と、みるみる、写真も髷もいびつに傾いでゆき、ただ視野をふさぐ水紋を見るばかりになった。
(お母さまが、いまお祖母さまの顔のなかに生きている……)
 と末起の、心の傷がしくんしくんと疼きはじめる。しかしこれは、ただ末起の感傷に触れたばかりだったか※[#感嘆符疑問符、1−8−78]
 その夜――義父《ちち》の謙吉の顔が、夜食の膳でちがっていた。
「末起、お前かね? お祖母さまに、あの髷を結わせたのは……」
「いいえ」
「だけど、お祖母さまは作りもののような人なんだよ。むろん、書けも喋りも出来んのだから、通じるはずはないし……。誰だね、とき……霜やかね? 末起は、誰が髪結いを連れてきたか知ってるだろうが」
 末起は、ちょっとの間、窺うように黙っていた。義父は……お祖母さまのいいつけではないという。それは、お祖母さまの眼を知らぬ以上、決して無理ではないのだ。では、あのことを打ち明けようかしら……となると、
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