色もなく、かすかに血を吐いただけで眠るように死んでいた。そして傍らには、祖母のまきが面彫りをにぎって、返り血に染み失神していたのである。
しかしそれなり、祖母の意識は旧《もと》どおりにならなかった。というよりも、おそらく一時の激情から醒め娘の死体を見、はっと、我にかえったときの衝撃であろうか、それなり、手足もうごけず口も利けず、ただ見、聴くだけの屍のようになってしまった。
その室は、まきの口から病室になったもので、可愛いいおゆうの病状を悪化させまいとして、扉に鍵をおろし謙吉を遠ざけていた。その夜も、鍵は鍵孔に差しこまれたままで、もちろん、合鍵でも開けられぬ状態にあった。しかも、庭に面した窓はかたく鎖され、湿った窓したの土にも足跡はない。
そうして、すべてがまきを指し、だが、そうなっても、なぜ後家を守ってまでも育てあげた、一人娘を殺したかという動機には、いくら探っても適確なものがない。女中の証言には、その前夜口論があったという。……さまで、悪くないおゆうには謙吉からはなれている、夜々のことが時々佗びしくなり、そういうときには、なにかにつけ辛く母に当り、その夜も、まきの賺《なだ》める
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