たくしたちの間には、見えない帯がある。それだのに、末起には気味のわるい夜鳥のようなものがいて、夢に、あたくしが行くのが、きっと妨げられていると思う。でもあたくしも、熱や血の動揺がなくてはこの手紙が書けません。もっと、末起のため、犠牲があればいいがと思う。末起の浄らかな天上的肉体《ヘウンリイ・フレーム》――。
 お姉さまは、末起の悩みを身に体《たい》さなくてはならぬと思います。茨を踏んで、痛みと血をまた夢にかよわせましょう。しかし、末起の苦痛をすこしでも和らげることも、お姉さまの、神聖な義務《つとめ》だと思いますわ。末起は、あたくしが贈った本を、どうお思い?
 あなたの、苦悩と悲歎のなかへ童話の本を贈って、それで、悩みを滌ぎ和らげよというのではありません。なんでしょう? でも末起を、お姉さまの愛が、救えぬとは考えられません。
 これは、読んで読んで鼻についたほどの、アリスの不思議国行脚ですけど、このなかには、青蟲や泣き海亀やロック鳥などが、この世にない、ふしぎな会話をかわし人真似をしながら、暗喩寓喩の世界を真しやかに語りだすのです。で、それが、末起の悩みと、どんな関係になるでしょう。
 
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