、じゃ自由にさせるさ。お祖母さまが、いいだしたのではなくお前がしたのなら、私はさっそくにも止めさせようと思ったよ」
しかし、それから二、三日経って学校からもどると、祖母の居間で異様な情景を見せられてしまった。義父が、祖母の正面に立ちはだかって、じっと相手を見入っている。
それには、きょうこそ究めるぞといった底重さがあり、祖母は、いつもの無表情で、うけ付けぬような静けさである。しかし瞳には、これまで見たこともない異様な閃きがあった。まったく、そこだけが刳り抜かれ、業そのもののような生気が皺の波からほとばしっている。冷視、憎悪、侮蔑、嘲笑――そういった色が読みとれるような、また、謙吉の罵りに義憤を感じたのか、いずれにしろ、その情景には平常《ただ》ならぬものがあった。
しかし謙吉は、末起をみると、慌てたように離れてしまった。そして摺れちがいに、扉際のところでぐいと肩をつかみ、
「ねえ末起、今日は何日だろう?」
「十七日ですわ」
「そうだ、月はちがっても、お母さまの命日だ。おれは、いつもは抑えているが、この日には出来なくなる」
謙吉の生活もたしかに暗いものだった。いまも、眼は霑い悲しみ
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