の色が、たしかに、祖母への憎悪より度強《どぎつ》いことがわかる。末起も、それを見るとあれほど固かった、信念がぐらぐらに揺ぎだしてくるのだ。
 しかし祖母の眼は、孫娘をみると和らぎと愛に、一度は、渇いてかさかさになったのが濡れはじめすうっと頬を伝わる。もう末起は、疑惑の深さに耐えられなくなってしまった。お祖母さまの、頬に自分の頬を摺りつけて、冷たい、濡れたうえをすうっと走る、涙に自分が泣いているのがわかった。
「ようお祖母さま、いまお義父さまはなんて仰言ったの」
 末起は、あいだを置いてぐいと呼吸をのんだが、どっちにも、瞬きを止めるあの感動をあらわしたに過ぎなかった。末起はそれをみて、万策尽きたように感じた。このまま、永遠に鎖の音を聴き、解けぬままにどこまでも引き摺られるのだろう。
 が、そのとき、祖母の眼が正面にある、何かの上に、ぴたりと据えられているのに気がついた。瞬かぬ……なにか、末起に訴えようとしている。
「なあに、お祖母さま。これ……じゃ、これ?」
 するとお祖母さまは、暖爐の袖にかけてある鍵を取りあげたとき、きゅうに、瞬きをやめるあの感動をあらわした。その鍵は、母が殺されたと
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