な歓喜は、またなんという皮肉な前狂言だったのであろう。滝人は、知らぬ男の前で着物を脱がされたような、恥かしさと怖ろしさで一杯になりながら、月夜の庭を不確かな足どりで、当てどもなく彷徨《さまよ》いはじめた。舌が真白に乾いて、胸は上から、重いもので圧《おさ》れているように重たかった。頭の中で、ズキリズキリと疼き上げているものがあって、絶えずたぎっているような血が、顳※[#「※」は「需+頁」、141−3]《こめかみ》から心臓にかけて、循環しているのが判るような気がした。滝人は、絶えず落ち着こうと努めていた。そして、何か忘れてはならないものを、忘れているのではないかと思ったり、突然自分には、とうてい判断がつかぬような、観念に打たれて驚かされることもあった。しかし、そういう無自覚の間にも、絶えず物を考えようとする力が、藻掻《もが》き出てくるのだったが、それはほんの瞬間であって、再び鈍い、無意識の中に沈んでしまうのだった。そうしているうちに、湯気のようなものを裾《すそ》暖かに感じたかと思うと、突然烈しい苦痛が下から突き上げてきた。彼女はいつのまにか土間の閾《しきい》を踏み跨《また》いでいて、その両
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