ーの実験中にあるではございませんか。催眠中には、瞳に映った一ミリほどの文字でも読むことができるのです。振り返って、背後を御覧あそばせ。『反玉足玉《かえしたまざたちたま》高代道反玉《たかしろのみちあかしたま》』とある――その中の高代《たかしろ》の二字が、お母さまの瞳に映ったのですけど、文字力のない現在の十四郎には、それを高代《たかよ》と読む以外に術《すべ》はなかったのです。ねえ、そうでございましょう。心の中でそれと判ってはいても、意地悪な貴方は、わざと私にはそれと告げず、さんざん弄《もてあそ》んだ末に……、ええ判りましたとも、あの十四郎には、やはり以前の貴方が住んでいるということも。そして、現在生きているはずの鵜飼邦太郎は、あの時、貴方の顔に似て、死んで行ったということも……」
それから滝人は、逃げるようにして御霊所を出たが、しばらく扉際に立って、濡れた両手を顔に押し当てていた。彼女は、世界中の嘲りを、いまや一身にうけているような気がした。運命とは元来そうしたものだとは云え、あの逆転はあまりに咄嗟《とっさ》であり、あまりに芝居染みて仕組まれているではないか。そして、先刻《さっき》の獣的
前へ
次へ
全120ページ中97ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小栗 虫太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング