白蟻
小栗虫太郎

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)蜿々《えんえん》

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)淵上武士の頭領|西東蔵人尚海《さいとうくらんどしゃうかい》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#本文中、伏せ字は「*」で表した。]
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[#本文中、伏せ字は「*」で表した。]

 序《はしがき》

 かようなことを、作者として、口にすべきではないであろうが、自分が書いた幾つかのなかでも、やはり好きなものと、嫌いなものとの別が、あるのは否まれぬと思う。わけても、この「白蟻」は、巧拙はともかく、私としては、愛惜|措《お》く能わざる一つなのである。私は、こうした形式の小説を、まず、何よりも先に書きたかったのである。私小説《イヒ・ローマン》――それを一人の女の、脳髄の中にもみ込んでしまったことは、ちょっと気取らせてもらうと、かねがね夢みていた、野心の一つだったとも云えるだろう。
 のみならず、この一篇で、私は独逸歌謡曲《ドイツ・リード》特有の、あの親しみ深い低音に触れ得たことと思う。それゆえ私が、どん
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