足の下に、仔鹿《かよ》の生々しい血首をみた。その瞬間一つの恐ろしい観念が、滝人を波濤《はとう》のように圧倒してしまった。身にも心にも、均衡を失ってしまって、思わず投げ出されたように、地面に這いつくばった。そして、頬を草の根にすりつけ、冷々《ひえびえ》とした地の息を嗅ぎながら、絶えず襲い掛かってくる、あの危険な囁きから逃れようと悶《もだ》えた。
 そこには、腐爛しかかった仔鹿《かよ》の首から、排泄物のような異臭が洩れていて、それがあの堪えられぬ、産の苦痛を滝人に思い出させた。しかし、現在の十四郎が、真実の変貌という事になってしまうと、あの物凄い遊戯をしてまで、時江に植えつけた美しい幻像は、いったいどうなってしまうのであろう。二人の十四郎――そこで滝人は、たちまちどうにも抜き差しのならない疑題に直面してしまった。すると、しんしんとあの歓喜が舞い戻ってきて、暗い光明のない闇の中から、パッと差し込んできた一条の光があった。滝人は、まるで夢魔に襲われたような慌《あわ》てかたで、すっと立ち上がった。この孤独な地峡の中で、甲斐《かい》のある生存を保っていくには、何よりあの腫物《はれもの》を除かねばな
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