拡がっていった。すると、不思議な事には、頬の窪みにすうっと明るみが差し、細やかな襞《ひだ》や陰影が底を不気味に揺り上げてきて、わずかに耳の付け根や、生え際のあたりにだけ、病んだような微妙な線が残されるばかりになった。そうして、隆起したくびれ肉からは、波打つような感覚が起ってきて、異様に唆《そそ》りがちな、まるで繻子《しゅす》のようにキメの細かい、逞《たくま》しい肉付きの腰みたいに見えた。滝人は、もうどうすることもできず、見まいとして瞼《まぶた》を閉じた。すると、また暗黒の中で、それが恐ろしくも誇張された容《かたち》となって現われ、今や十四郎のありし日の姿が、その顔の中に永久住んでゆくかのごとく思われるのだった。そうした、とうてい思いもつかなかった喜ばしさの中で、なぜか滝人は、ぞくぞく震えていたのである。身も心も時江に奪われて、十四郎そっくりの写像が、眼前にちらつくのを見ると、そうして生れた新しい恋愛に、彼女の心は、一も二もなく煽り立てられた。滝人は、もう前後が判らなくなってしまったが、絶えずその間も、熱に魘《うな》されて見る、幻影のようなものがつき纏《まと》っていて、周囲の世界が、しだ
前へ 次へ
全120ページ中91ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小栗 虫太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング