ブンブン唸ったり、踊ったりするようになったのですけれど、しかし貴方の幻を、その上に移したとすれば、当然その肉体までも、占めようとしたって、あながち不自然な道程《みちすじ》ではないだろうと思われますわ」
そこで急に言葉を截《た》ち切って、滝人は悲しみに溢れたような表情をした。けれども、その悲しみのかたわらに、何か一つ魔法のような圏があるとみえて、その空虚を、みるみる間に充してゆくような、凄まじい響が高まってきた。
「ですから、時江さんが避ければ避けるほど、貴方の幻をしっくりと嵌《は》め込むのに、焦《じ》れだしてきたのですが、折よくこの樹立の中で、私は人瘤《ひとこぶ》を探し当てました。それが私をまったく平静にして、あの烈しい相剋が絶えずひしめき合っていてさえも、いっこう爆発を惹《ひ》き起すまでには至らないのです。つまり、私の心を、膜一重でからくも繋ぎ止めているあの三重の心理――現在の十四郎を鵜飼としてそうしての春婦のような私と、時江さんに貴方を求めても、いつ追いつけるか判らない私。それから、その空虚を充そうとして、人瘤を探しだした私――と、この三つの人格が、今にも綻《ほころ》びるかと思わ
前へ
次へ
全120ページ中70ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小栗 虫太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング