れながら、じっとあの対立を保っていてくれるのです。しかし、ここに問題があると云うのは、もしいつかの日に――わけても、私が時江さんを占めることの出来た、その後にやって来たとしたらなおさらですが――そうしてあの男が、貴方の空骸《なきがら》に決まってしまうのでしたら、いったいその時、私はどうなってしまうのでしょう。せっかく貴方の幻影という衝動に追われて、ここまでからくもやってきたのです。それをまた、あの妖怪に引き戻されてしまうなんて、まあなんという、憐れな惨《みじ》めな事でしょう。そうなったら、耐え忍んで、その悩みにじっと堪えるか、それともその苦しみが私をあまり圧迫するようなら、より以上の烈しい力で、いっそ投げ捨ててしまうまでのことです。同時に、それは喜惣もですわ。ですから、そう思うと、私が時江さんに近づけないということが、あるいはさきざき幸福なのかもしれませんわね。まったく、私という女は、一つの解け難い、結び目の中にからみ込んでいるのです。ですから、悩みというものが、もしも鉄のような、神経の持主だけに背負《しょ》われるものだとすれば、当然その反語として、いつか私は、それに似た者になってしま
前へ 次へ
全120ページ中71ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小栗 虫太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング