になって、私が糞真面目な顔で、その真相をこれこれと告げる気にもなれません。あれが、癩ですって、いいえ、あの、眼を覆いたくなるような形は、実は私が作ったのです。[#「あの、眼を覆いたくなるような形は、実は私が作ったのです。」に傍点]あの時は、稚市どころか、どんな驚くようなものでも――私には、創り上げるだけの精神力が具わっておりました。断じて、癩ではございませんわ。その証拠には、これを御覧あそばしたら……」
そう云って滝人は、稚市を抱き上げてきて、膝の上で逆さに吊し上げ、その足首に唇を当てがって、さも愛撫するように舐《な》めはじめた。唾液がぬるぬると足首から滴り下《お》ち、それが、ふっ切れた膿《うみ》のように思えた。が、滝人には、そうしている動作にも、異様な冷たさや落ち着きがあって、やがて舐め飽《あ》きると、今度は試験管でも透かし見るように、稚市の身体を、これよとばかりに高く吊し上げた。
「このとおりでございますもの。稚市《ちごいち》のこれが、先夫遺伝《テレゴニー》でさえなければ……。まさに先夫遺伝《テレゴニー》なのでございますの。でも、私には貴方以外に、恋人もなければ、夫もないはずです
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