ながらの姿だったであろう。不吉な蒸気の輪が、不具の身体と一緒に動いていって、その手《て》が触れるところは、すぐその場で、毒のある何物かに変ってしまうだろうと思われた。しかし、あの醜い手足も青葉の蔭に隠れ、不気味な妖怪めいた頭蓋の模様も、その下映《したばえ》に彩《いろど》られていて、変形の要所《かなめ》は、それと見定めることは出来なかった。そして、腹に巻いてある金太郎のような、腹掛の黒さだけがちらついて、妙にその場の雰囲気を童話のようなものにしていた。けれども、稚市自身はどうしたことか、両腕をグングン舵機のように廻しながら、おりおり滝人のほうを眺め、ほとんど無我夢中に、前方の樹下闇《このしたやみ》の中に這い込もうとしている。だが、彼を追うているのは、ただ一条の陽の光りだけで、それが槲《かしわ》の隙葉から洩れているにすぎない。それを滝人は瞬《またた》きもせずに瞶《みつ》めていた。その眼は強く広く※[#「※」は「目+爭」、116−8]《ひら》かれていたが、眼前にかくも怖ろしいものがあるにもかかわらず、いつものように病的な、膜までかかったような暗さは見られなかった。それが、この物語の中で、最も
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