でもって湧き立ち、ドロリとした、液のような感じを眼に流し入れてくる。けれども、そのように見える土の流れは、ものの三尺と行かぬまに、はや波のような下生えのなかに没し去ってしまう。が、その前方――半里四方にも及ぶなだらかな緩斜は、それはまたとない、草木だけの世界だった。そこからは、熟《う》れいきれ切った、まったく堪《たま》らない生気が発散していて、その瘴気《しょうき》のようなものが、草原の上層一帯を覆いつくし、そこを匂いの幕のように鎖していた。しかし、ここになによりまして奇異《ふしぎ》なのは、そこ一帯の風物から、なんとも云えぬ異様な色彩が眼を打ってくることだった。それが、あの真夏の飽和――燃えさかるような緑でないことは明らかであるが、さりとてまた、雑色でも混淆《こんこう》でもなく、一種病的な色彩と云うのほかになかった。かえって、それは、心を冷たく打ち挫《ひし》ぎ、まるで枯れ尽した菅《すげ》か、荒壁を思わす朽樹《くちき》の肌でも見るかのような、妙にうら淋《さび》れた――まったく見ていると、その暗い情感が、ひしと心にのしかかってくるのだった。
云うまでもなく、それには原因があって、この地峡も
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