エット図」、95−5])とでも云えば、似つかわしげな形で這《は》い歩いているのだった。だが、そうなると稚市の誕生には、またちょっと、因果|噺《ばなし》めいた臆測がされてきて、あるいは、根もない恐怖に虐《しいた》げられていた、信徒達の酬いではあるまいかとも考えられてくる。が、そうしているうちに、その迷信めいた考えを払うに足《た》るものが、古い文書の中から発見された。それは、くらの夫――すなわち先代の近四郎が、草津|在《ざい》の癩村に祈祷《きとう》のため赴いたという事実である。するとそれからは、たとえそれが、遺伝性であろうと伝染性であろうと、また胎中発病が、あり得ようがあり得まいが、もうそんな病理論などは、物の数ではなくなってしまって、はや騎西家の人達は、自分達の身体に腐爛の臭いを気にするようになってきた。そして明け暮れ[#底本では「明れ暮れ」と誤植]、己れの手足ばかりを眺めながら、惨《いた》ましい絶望の中で生き続けていたのである。
 ところが、こうした中にも、恐怖にはいささかも染まらないばかりでなく、むしろそれを嘲り返している、不思議な一人があった。それが、十四郎の妻の滝人である。彼女は
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