ない。したがって、全体の形が、何かの冠《かんむり》か、片輪b鰭《びれ》みたいに思われるのである。そして、四肢のどこにも、その部分だけがいやに銅光りをしていて、妙に汚いながらも触りたくなるような、襞《ひだ》や段だらに覆われていた。のみならず、この奇怪な変形児は、まったくの唖《おし》であるばかりか、知能の点でも、母の識別がつかないというのだから、おそらくは生物としては、この上もなく下等な存在であろう。事実稚市には、わずかに見、喰うだけの、意識しか与えられていなかったのである。
 したがって稚市《ちごいち》が、この世で始めの呼吸《いき》を吐くと、その息吹と同時に、一家の心臓が掴み上げられてしまったのだ。云うまでもなく、その原因は四肢《てあし》の変形にあって、しかも形は、疑うべくもない癩潰瘍《らいかいよう》だった。現に仏医ショアベーの名著『暖国の疾病』を操ってみれば判るとおりで、それにある奇形癩の標本を、いちいち稚市《ちごいち》と対照してゆけば、やがて幾つか、符合したものが見出されるに相違ない。おまけに、両脚がガニ股のまま強直していて、この変形児は、てっきり置燈籠(※[#「※」は「置燈籠のシル
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