、当時復活した所払《ところはら》いを、いの一番に適用されたので、やもなく騎西一家は東京を捨て、生地の弾左谿《だんざだに》に帰還しなければならなくなってしまった。
その夜、板橋を始めにして、とりとめがたい物の響が、中仙道《なかせんどう》の宿《しゅく》々を駭《おどろ》かしながら伝わっていった。その響は雷鳴のようでもあり、行進の足踏みのようにも思えたけれど、この真黒な一団が眼前に現われたとき、不意に狂わしげな旋律をもった神楽《かぐら》歌が唱い出され、それがもの恐ろしくも鳴り渡っていった。老い皺ばった教主のくらを先頭にして、長男の十四郎、その側《かたわら》に、妙な籠《かご》のようなものを背負った妻の滝人、次男である白痴の喜惣《きそう》、妹娘の時江――と以上の五人を中心に取り囲み、さらにその周囲《ぐるり》を、真黒な密集が蠢《うごめ》いていたのである。その千にも余《あま》る跣足《はだし》の信者どもは、口を真黒に開いていて、互いの頸《くび》に腕をかけ、肩と肩とを組み、熱意に燃えて変貌したような顔をしていたが、その不思議な行進には佩剣《はいけん》の響も伴っていて、一角が崩されると、その人達はなおいっ
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