そう激昂して蒼白くなるが、やがてそうしているうちに、最初は一つだった集団が、幾つにも、水銀の玉のように分れてゆくのだった。しかし、信者の群は、なおも闇の中から、むくむく湧き出してくるのだったけれども、それが深谷《ふかや》あたりになると、大半が切り崩されてしまい、すでに神ヶ原では、五人の周囲に人影もなかった。
 かくして、一種の悲壮美が、怪教馬霊教の終焉《しゅうえん》を飾ったのだったが、その五人の一族は、それぞれに特異な宿命を背負っていた。そればかりでなく、とうに四年前――滝人が稚市《ちごいち》を生み落して以来というものは、一族の誰もかもが、己れの血に怖ろしい疑惑を抱くようになってきて、やがては肉も骨も溶け去ってしまうだろうと――まったく聴いてさえも慄然《ぞっ》とするような、ある悪疫の懼《おそ》れを抱くようになってしまった。そうして、そのしぶとい相克が、地峡のいいしれぬ荒廃と寂寥《せきりょう》の気に触れたとすれば、当然いつかは、狂気とも衝動ともなりそうな、妙に底からひたぶりに揺り上げるようなものが溜ってきた。事実騎西一家は、最初滝人が背負ってきた、籠の中の生物のために打ち挫《ひし》がれ、
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