だ。日本政府が、もしも僕の仕事を追認してくれてだね、『|冥路の国《セル・ミク・シュア》』の先占宣言をしてくれたら……」
ここで、もはや言うべき言葉もなくなった。ドイツ人が夢想する新極北島《アイランド・アルクチス》を徒手空拳《としゅくうけん》で実現しようとした折竹の快挙談。氷冥郷《ひょうめいきょう》をあばく大探検にともなう、国際陰謀と美しい情火のもつれを……。さて、彼に代ってながながと記すことにしよう。
大力女《ファティマ》[#ルビの「ファティマ」は底本では「ファイティマ」]おのぶサン
全米に、かなり名の聴えたウィンジャマー曲馬団《サーカス》が、いまニューヨーク郊外のベルローズで興行している。サーカスの朝はただ料理天幕《クッキング・テント》が騒がしいだけ……。芸人も起きてこず野獣の声もない、ひっそり閑とした朝まだきの一刻がある。そのころ、水槽《すいそう》をそなえた海獣の檻《カラル》のまえで、なにやら馴育師《トレイナー》から説明を聴いているのが……、というよりも甚《はなは》だしい海獣の臭気に、鼻を覆うていたのが折竹孫七。
「これが、今度入りました新荷でがして」と、海豹《あざら
前へ
次へ
全49ページ中9ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小栗 虫太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング