、正邪も仇同志も一度|実業《ビジネス》となれば、それまでの行き掛りなんぞは、何でもなくなってしまうんだ。で、クルトがすべてをロングウェルに話したね。お前さんには言わなかったろうが鯨狼《アー・ペラー》が捕われた位置を、ロングウェルは経度まで知っている。すると、海獣が遠い陸地のなかにいる。可怪《おか》しい。それに、ミュンツァ博士のあの無電があるだろう。ことによったら、海峡みたいのものがズウッと内地へ伸びているんじゃないか、──ロングウェルはこう考えたんだ。
しかし、こんな奥地へ行けるものといや、お前さんのほか誰があるだろう。こいつを一番利用してやって、事《こと》成就《じょうじゅ》の暁には殺《や》ってしまおう。というのが腹黒検事の考えさ。だから、じぶんを隠すためにルチアノを使って、すべてをギャングの仕業らしく見せかけたわけだ。ケプナラも、頭巾をとりゃロングウェルの腹心。へん、ご親友がお気の毒さまだったね」
「だが、どうして君は、それを知ったんだ」
「立ち聴きさ。あんたが、曲馬団《サーカス》にくるまえケプナラがやってきて、親方とひそひそ話をやっていた。うちの親方だって、猶太《ジュウ》仲間だか
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