りに、言ったのだろうね。ケプナラ、ザンベック両君に避難しろって」
「ああ、あんなこと」と、おのぶサンはケロッとして、
「あたし、なんだか忘れてしまったらしいよ」
「馬鹿っ」と怒気心頭に発した折竹ががんと一つ殴りつけ、
「なんのために……。君は、あの二人を殺してしまったも、同じだ」
「殺していいでしょう。どうせ、殺さなければ今夜あたり、あんたが殺《や》られるにきまっているから……」
「なに」
と、気を抜いたところへおのぶサンの手が伸びて、折竹の頸筋をつかみ、ぐいと吊しあげた。河馬女《ファティマ》の大力には、彼も敵《かな》わない。そのまま、片手にさげた彼をぐんぐん運んでゆき、氷罅《クレヴァス》のなかへぶらんと宙吊りにしたのだ。
「人が、せっかくお前さんを助けてやったのに、引っ叩くなんて……しばらく恐い思いをして、頭を冷ますがいい。お前さんは、ルチアノの『フラム』号をどう思っているね」
「オイ、上げろよ」折竹も悲鳴をあげはじめた。下をみれば、千仭《せんじん》の底から燃えあがる、青の光。
「じつを話すと、あのロングウェルとルチアノは同腹《ぐる》なんだよ。一体、アメリカというのがそんなところで
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