におそわれた。
天地晦冥となり、砂を吹きつけるよう。くるくる中天に舞う濃淡の波に、前方の連嶺が見え隠れしていたのも、暫し。やがて、一面が幕のようになり、咽喉《のど》の奥までじいんと知覚が失せてくる。みると、橇犬どもは悄然《しょうぜん》と身をすくめ、寒さに嗅覚がにぶったのか、進もうとはしない。刃の風とまっ暗な雪のなかで、一同は立往生してしまった。
と、やがて霽《は》れ間が見えてきた。すると、ケプナラがあっと叫んで、白みかけてきた前方を指差すのである。
「アッ、なんだありゃ。ルチアノ一味の襲撃じゃないか」
みると、そこを横切ってゆく数台の橇《そり》がみえる。来た、来た。乾魚や海象の肉をつめた箱を小楯に、一同は銃をかまえ円形をつくったのである。と、どうした訳かそれをみた、おのぶサンがゲラゲラっと笑いだすのだ。
極光下の新日本
「冗談じゃない。ここで、この隊を殺《や》っちまったら元も子もないじゃないか。ねえ、『|冥路の国《セル・ミク・シュア》』まで橇跡に蹤《つ》いていって、そこでというなら話になるがね。だけど私や『フラム』号の連中はすこしも恐かアないよ。恐いのは……」
と言い
前へ
次へ
全49ページ中39ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小栗 虫太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング