ミク・シュア》」の位置はこの地点からみると、真東に二百五十マイルほどのあたりに当る。
 この峡湾には、まるで人間への見せしめのような、破船が一つ横たわっている。ジョン・フランクリン卿の探検船「恐怖《ザ・テラー》」号の残骸が、朽ちくさった果ての肋骨のような姿をみせ、百年ばかりのあいだ海鳥の巣になっている。いずれは「冥路の国」を衝くものはこうなってしまうのだと、はや上陸早々魔境の威嚇に、一同は出会ったような気になった。まったく、そこはなんという陰気なところか。
 海霧《ガス》たち罩《こ》める、海面を飛びかよう[#「飛びかよう」は底本では「飛びかうよう」]海鴎《シーガル》や|アビ鳥《ルーシ》。プランクトンの豊富な錫色の海をゆく、砕氷や氷山の涯しない行列。なんと、幽冥界の荒涼たるよ──とさけんだ、バイロンのあの言葉が思いだされてくる。しかしそこで、攻撃準備は着々と進められ、北部 Etah《エター》 地方のエスキモー人があつめられてきた。そうなると、問題なのはフラム号の行方。
「いるぞ。暫く見えないから断念《あきら》めたと思ったら、『フラム』号のやつ“Kuk《クク》”島にいやがる。どのみち、チャ
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