シック体終わり]
およそ、世に分らないということにも、これほどのものはあるまい。冒頭でもいったように国際法の規定では、沿岸を占めれば奥地も領土となる。いま、グリーンランドで新領土の余地などというものは、誰がみても皆目ないはずなのに……。では、そのミュンツァ博士の通信は、戯《たわむ》れか狂気沙汰か※[#疑問符感嘆符、1−8−77]
「僕は、その意味がいまだに分りません。もっと、上等な頭で考えたら分るのかもしれないが、僕にはどうも投げ出すより仕様がない。で、その無電はそれで切れました。あとは、待てど暮せど、なんの音沙汰もない。仕方なく、僕は父をあきらめて、その峡湾《フィヨルド》を出ていったのです」
「なるほど、お父さんのミュンツァ博士は、死を確認されている」
と、折竹が沈んだ顔をして、呟いた。
しかしその時、彼の胸をサッとかすめた一抹の疑問。ことによったら、博士は「|冥路の国《セル・ミク・シュア》」の不思議な手に、狂人となっていたのではないか。死体が、橇を駆るように招かれてゆく途中、あの奇怪な無電をうったのではないか※[#疑問符感嘆符、1−8−77] しかし、その考えはその場かぎり消
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