ンランド東北岸の“Koldewey《コールドウェー》”島の峡湾《フィヨルド》に流れついて、通りがかりの船を待っていました」
「その間、ネモ号は」と、ケプナラ君がロイド眼鏡をひからせる。
「なにしろ、無電が壊れているんで、サッパリ消息が分りません。すると、そこへ運よく一隻の捕鯨船が通りかかって、僕は無電の修理材料をもらいました。修理が成った、と、それから三日ばかり経った夜、偶然、ネモ号の通信をとらえたのです。ご想像ください。まるで、蒼白いランプのような真夜中の太陽のしたで父の通信と分ったときの、私の悦び。しかしでした」
「では、その通信にはなんとありましたね」
「奇怪なことです。僕は、父が気違いになったとしか思えなかった。どうです、たとえば貴方がたがこういう無電をうけたとしたら……」と、クルトの目が、じっとすわって、当時の回想が胸迫ったような面持。それは、たぶんお読みになる皆さんもアッと言うだろうほどの、つぎの奇怪極まるものであった。
[#ここから太いゴシック体]
 ──いま、われらは「|冥路の国《セル・ミク・シュア》」に近し。ついにグリーンランド内地に新領土を発見す。
[#ここで太いゴ
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