け違ったことと思っていましたが」
と、やがてあの不思議な手紙を折竹に出したについての、極洋に横たわるという知られない国の話をしはじめた。
「折竹さん、あなたは五年ほどまえ北極探検用として、潜水客船《ウィンターワッサー・ファールツォイク》というのを考案したミュンツァ博士をご存知ですか」
「知っています。じゃ、おなじミュンツァとなると、あなたは?」
「あの、アドルフ・ミュンツァは僕の父です」とクルトは[#「とクルトは」は底本では「クルトは」]感慨ぶかげに言うのだ。
「父は、ご存知のとおりの造船工学家でしたが、極地の大氷原を氷甲板《アイスデッケ》として、そこに新ドイツ領をつくろうという、夢想に燃えていたのです。新極北島──と、父は氷原上の都市をこう呼んでいましたよ。ところが、まもなく一隻を自費でつくりあげ、一九三三年には極洋へむかいました。僕は、体質上潜行に適しないので、捕鯨船の古物である一|帆船《パーク》にのって『ネモ号』というその潜船に蹤《つ》いていったのです。すると、運の悪いことには半月あまりの暴風雨。無電はこわれ散々な目に逢ったのち、『ネモ号』を見失って漂流一月あまり。やっとグリー
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