へ。
その後、彼とケプナラがイースト・サイドへ出掛けていった。
そこは、二十七か国語が話されるという、人種の坩堝《るつぼ》。極貧、小犯罪、失業者の巣。いかに、救世軍声を嗄《か》らせどイースト・リヴァの澄まぬかぎり、ここの|どん詰り《デッド・エンド》は救われそうもないのだ。
「ここが、二〇九番地だから、この奥だろう」
と、皮屋と剃刀《かみそり》屋のあいだの階段をのぼり、突き当りのボロ蜂窩《アパート》へはいってゆく。
廊下は、壁に漆喰《しっくい》が落ちて割板だけの隙から、糸のような灯が廊下にこぼれている。年中、高架線の轟音と栄養不足で痛められている、裸足《はだし》の子供たちがガヤつく左右の室々。やっと、さぐり当てたクルト・ミュンツァの部屋を、折竹がかるく|叩き《ノック》をした。
「入れ。誰だ、マッデンかい」
あけると、意外な男二人にオヤッと目をみはる。どこか悪いらしく寝台にねているミュンツァは、三十|恰好《かっこう》の上品な面立ちの男だ。折竹が、来意を告げると踊りあがるような悦び。あのK・Mとは、やはりこのミュンツァ。
「ああ、来てくだすったですね。いろいろ、ご都合もあろうし、駈
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