感嘆符、1−8−77]」
とこれが、折竹にひき合わされたおのぶサンの第一声。サーカスにいるだけにズケズケと言う。悪口、諧謔《かいぎゃく》、駄洒落《だじゃれ》連発のおのぶサンは一目でわかる好人物らしい大年増。十歳で、故郷の広島をでてから三十六まで、足かけ二十六、七年をサーカス暮し。
このウィンジャマー曲馬団《サーカス》の幌馬車時代から、いま、野獣檻《ミナジリー・デン》だけでも無蓋貨車《マフラット・カー》に二十台という、大サーカスになるまで、浮沈を共にした、情にもろい気さくな性格は、いまや名実ともにこの一座の大姐御《おおあねご》。といって、愛嬌はあるが、寸分も美人ではない。まあ、十人並というよりも、醜女《しこめ》のほうに分があろう。
「ほら、私だというとこんな具合で、化物|海豹《あざらし》めが温和《おとな》しくなっちまう」と、餌桶いっぱいの魚をポンポンくれているおのぶサンと、鯨狼《アー・ペラー》をひき比べてみているうちに、折竹がぷうっと失笑をした。それを見て、
「この人、気がついたね」
と、おのぶサンがガラガラッと笑うのだ。
「なんぼ、私とこの大将と恰好が似ているからって、別に、親類の
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