オバサンが来たなんてんで、懐《なつ》いたんじゃないよ。つまり、相縁奇縁ってやつだろうね。私もこいつも、知らぬ他国を流浪《るろう》の身の上だから、言葉は通じなくても以心伝心てやつ」
「おい姐さん、以心伝心で口説いちゃいけねえよ」
と、白粉っ気はないが、道化らしい顔がのぞく。
馬を洗う音や、曲奏の大喇叭《チューバ》[#「大喇叭」は底本では「大喇叺」]の音。楡《エルム》の新芽の鮮緑がパッと天幕に照りはえ、四月の春の陽がようやく高くなろうとするころ、サーカスのその日の朝が目醒める。しかしまだ、鯨狼《アー・ペラー》をここへ売ったのが何者かということが、最後の問題として残っているのだ。それに、親方が次のように答える。
「なんでもね、二っちも三っちもいかなくなった捕鯨船の後始末とかで、こいつを売ったやつの名は、クルト・ミュンツァ、です。住所《ヒシラ》はイースト十四番街の高架線の下で」
この、鯨狼[#「鯨狼」は底本では「鯨」]の出所については折竹よりも、むしろ、このほうの専門家のケプナラ君に興味多いことだ。ところが、どうしたことかそれを聴くと、ちょっと、折竹が放心の態になった。ただ、“〔Ku:r
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