と、橇《そり》をまっしぐらに走らせてゆく。まばゆい、曼珠沙華《まんじゅしゃげ》のような極光《オーロラ》の倒影。吹雪、青の光をふきだす千仭《せんじん》の氷罅《クレヴァス》。──いたるところに口を開く氷の墓の遥かへと、そのエスキモーは生きながら呑《の》まれてゆく。
と、いうように氷の神秘と解釈する。それだけでも、「|冥路の国《セル・ミク・シュア》」は興味|津々《しんしん》たるものなのに、一度折竹の口開かんか、そういう驚異さえも吹けば飛ぶ塵のように感じられる。それほど……とは何であろう※[#疑問符感嘆符、1−8−77] 曰く、想像もおよばず筆舌に尽せず……ここが真の魔境中の魔境たる所以《ゆえん》を、これからお馴染《なじみ》ふかい折竹の声で喋《しゃべ》らせよう。
「なるほど、君も『|冥路の国《セル・ミク・シュア》』について、ちっとは知っているね。だが一つだけ、君がいま言ったなかに間違いがあるよ。というのは、『|冥路の国《セル・ミク・シュア》』の招きでエスキモーが橇《そり》を走らせる。まるで、とっ憑《つ》かれたようになって、夢中でゆく。というなかに、一つだけある」
「へええ、というと何だね」
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