いう、“Ser−mik−suah《セル・ミク・シュア》”は極光下の神秘だ。では一体、その「|冥路の国《セル・ミク・シュア》」とはどういうところか。
 まず、誰しも思うのは伝説の地だということ。グリーンランドの内部は、八千フィートないし一万フィートの高さのわたり、大高原をなしている。そして、それを覆う千古の氷雪と、大氷河の囲繞《いにょう》。とうてい五百マイルの旅をして核心を衝くなどということは、生身《なまみ》の人間のやれることではない。だから、そこに冥路の国がある、死んだ魂があつまる死霊の国がある──とエスキモー土人が盲信を抱《いだ》くようになる。
 と、これがマアいちばん妥当なところで……たぶん皆さんもそうお考えであろうと思われる。また、「|冥路の国《セル・ミク・シュア》」について多少の知識のある方は、一歩進んだものとして次のようなことも言うだろう。
 馬来《マライ》の狂狼症《アモック》をジャングルの妖とすれば、「|冥路の国《セル・ミク・シュア》」の招きは氷の神秘であろう。それに打たれた土人は狂気のようになり、家族をわすれおのが生命をも顧《かえり》みず、日ごろ怖れている氷嶺の奥ふかくへ
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