ガー・マン》の銃口を扉のそとに控えていても、暗黒街《アンダーウォールド》の閻魔《えんま》夫婦を目のまえに見ていても、不義不正や圧迫には一分の揺ぎもしない彼には、骨というものがある。静かだ、ウエスト・エンド|通り《アヴェニュー》の雑踏が蜂のうなりのように聴えてくる都心|紐育下町《マンハッタン》のなかにも、こうした閑寂地がある。がいよいよルチアノも手がつけられなくなって、
「マア、これをご縁にちょいちょい伺ううちにゃ、先生だって情にからむだろう。なにも、|殴り込み《ラケット》ばかりが能じゃねえ。誠心誠意という、こんな手もありまさア」
「おいおい、ギャングの情にからまれるのか」
「そう仰言られちゃ、身も蓋《ふた》もねえが」
とルチアノは苦笑しながら立ちあがる。が、なんと思ったか、ちょっと目を据えて、
「時に、あっしらしくもねえ妙なことを伺いやすが……最近、先生んところへ匿名《とくめい》の手紙が来やしませんか」
「来たよ。しかし、地獄耳というか、よく知ってるね」
「ご注意しますが、絶対あんなものには係わらねえほうが、いい。ずいぶんコマゴマしたことで、無駄な殺生をしたり、ケチな強請《ゆすり》を
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