ロー、彼の情婦で魔窟組合《プロスティチューション・シンジケート》の女王、千人の妓と二百の家でもって、年額千二百万ドルをあげるという、大変な女だ。そういう、暗黒街に鳴る鏘々《そうそう》たる連中が、いかなる用件があってか丁重きわまる物腰で、折竹の七十五番街の宿へやってきた。
世界的探検家対ギャングスター・ナンバー一《ワン》。まずこれは、一風雲必ずやなくてはなるまい。
「ご免なすって」と人相は悪いがりゅっとした服装の伊太《イタ》公、フローは、まだ若くガルボ的な顔だち。しかし、駆黴剤《くばいざい》の浸染《しみ》はかくし了《おお》せぬ素姓をいう……、いまこの暗黒街を統《す》べる大|顔役《ボス》二人が、折竹になに事を切りだすのだろう。
「じつは、高名な先生にお願いの筋がござんして。と、申しますのは余の儀でもござんせん。ここで、分りのいい先生にぐいと呑みこんで頂いて……」
「なにをだ」
「すべて、どこへ行くとか何をするとか──その辺のところは一切《いっさい》お訊きにならず、ただ手前の指図どおり親船に乗った気で、ちかく“Salem《サレム》”をでる『フラム号』という船にのって頂く」
「おいおい、俺を
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