《あ》えて小生は、世界的探検家なる折竹氏に言う。この地上にもし、まだ誰も知らず一人も踏まぬ国ありとすれば、その所在を、ご貴殿にはお買い取りになりたき意志なきや。小生は、それほどのものを売らねばならぬほど、目下《もっか》困窮を極めおり候。
明日、午後三時より三時半までのあいだ、東《イースト》二十四番街のリクリェーション埠頭《パイアー》の出際、「老鴉《オールド・クロウ》」なる酒場にてお待ち申しおり候、目印しは、ジルベーのジンと書いてある貼紙《はりがみ》の下。
[#地から2字上げ]K・M生
未知の国|売物《うりもの》──じつに空前絶後ともいう奇怪なことである。まして、国というからには単純な未踏地ではあるまいが、まさか、そんなものがこの地上にあろうとは思われない。折竹はなんだか揶揄《からか》われるような気がして、ついに、二度三度と手紙がきても行かずにいた。
と、つぎに昨日のことだった。ふいに、男女二人の訪客があって、その名刺をみたときオヤッと思ったほど、じつにそれが意想外の人物だったのだ。
無疵《ラッキー》のルチアノ──いまタマニーに風を切るニューヨーク一の大親分。牝鶏《ニッキィ》フ
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