負えねえやつかということが、旦那がたに呑み込めねえかも知れねえから……」
 と、ヒューリングがまず西洋|鎧《よろい》のような、|鉄葉ズボン《ティン・パンツ》という足部《そくぶ》保護具をつける。これを着けないと、いつ未訓練のやつに、がりがりっとやられるかも知れない。檻《おり》の戸をあけてそっと内部《なか》にはいると、見かけは鈍重そうな氷原の豹どもも、たちまち牙を露《む》きだし、野獣の本性をあらわしてくる。ヒューリングは、|鉄葉ズボン《ティン・パンツ》のうえをガリガリやられながら、鉄棒につかまって外側へ声をなげる。
「最初は、生魚食いのこいつらに、死魚を食わせる。ぴんぴん糸で引っぱって躍らせていると、うっかり生きてると間違えて、ガブリとやる。そうして、餌《えさ》についたら、もう占めたもんで……。まもなく、|飾り台《パデストール》のうえに、ちょこなんと乗る。撞球棒《キュー》のうえへ玉をのせたのを、鼻であしらいあしらい梯子《はしご》をのぼってゆく。それから、梯子の頂上でサッと撞球棒を投げ、見事落ちてくる玉を鼻面《はなづら》で受けとめる。
 ──というようになれば、いっぱしの太夫。手前も、給金が
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